「失敗は成功の母」、聞き飽きた格言ではありますが、紛うことなき真理でもあります。
そんな失敗を科学的アプローチから検証し、まとめた当書籍。
失敗を次につなげ成長へと導くための知恵を貰うことが出来るでしょう。
もちろん、しないに越した事はないが…
この本を読むことで自己嫌悪に陥らず次のステップへと昇華するためのマインドセットを得ることが出来ると思います。
今回はこの本の失敗から学ぶマインドセットを禁酒、断酒に当てはめて考察を図りたく記事にした次第でございます。
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失敗に対して前向きな航空業界、後ろ向きな医療業界
我々が最も早く進化を遂げる方法は、失敗に真正面から向き合い、そこから学ぶことなのだ。
本文より引用
医療ミスに航空事故、どちらも絶対に避けたい事象ですが人間が営む以上、残念ながらミスは起こってしまいます。
肝心なのはミスが起こった後の行動。
どう対処するかによって未来への展望が大きく変わるのは間違いありません。
同じ失敗を繰り返さないために必要不可欠なのがフィードバック、つまり失敗の検証作業と言えます。
しかし前述の医療業界と航空業界では失敗に対する事後処理に大きな違いがあるようです。
そこには失敗を安全性向上のための好材料と捉える航空業界と無謬性に固執する医療業界のありようが見えてくるのです。
考えてみれば無理もない話で、航空に関する失敗は機械トラブル、天候、システムエラーなど個人ではどうにもならない外的要因が多くのウェイトを占めるのに対し、医療の現場においては医師や看護師の判断によるものが大きいためどうしても医療現場に置いては検証が後ろ向きになってしまいます。
人間誰しもミスして責められるのは嫌だからです。
本書の冒頭はとあるアメリカの平和な家庭に起きた悲劇から始まります。
詳細は本書を読んでいただきたいのですが、かいつまんであらすじを説明しましょう。
悲劇の主人公はその家庭の母親エイレン、まだ幼い子供が二人います。
エイレンは簡単な鼻の外科手術を受ける事になります。担当する医師はベテランで、なんの問題もなく手術は成功するはずでした。
しかし手術中にトラブルが起きます。手術用麻酔の投与中に患者であるエイレンの体が硬直し呼吸が出来ず無酸素状態に陥ってしまうのです。でもこういったトラブルは良くあることなので医師は「いつもどおり」に対処します。
しかし呼吸用のマスクのサイズが合わない、気道確保用のチューブが通らないなど、予期せぬトラブルが頻発。
「いつもどおり」にいかない状況に医師たちが困惑している中、エイレンの容態は急激に悪化。
それを脇で見ていた看護師はこのような事態を乗り切るための気管切開という「対処方法」を知っており、その準備もしていました。しかしベテランの医師たちはその「対処方法」を完全に失念し、通常の方法にこだわって回復を試みようとします。
看護師もベテランの医師たちに気兼ねしてしまいその「対処方法」を強く進言することが出来ません。
その間エイレンの無酸素状態は続き、処置を終えた頃にはもうどうしようもなくなっており、意識不明の昏睡状態に陥ります。
その13日後にエイレンは37歳という若さで短い生涯を終えてしまうのです。
なんということでしょう…
そして、遺族には事故の経緯を詳細に知らされることはありません。
ちなみにこのエピソードには続きがあり、真相解明に向けてエイレンの夫であるマーティン(職業パイロット)が様々なアクションを起こします。
続きはぜひ本書を読んで結末を知って欲しいです。
イギリスの英監査局によると、イギリスでのヒューマンエラーによる医療事故の死者は2005年では3万4000人、死亡以外の事故のケースを含めると97万4000件に登るとのこと。
また、救急医療に関する別の研究では医療過誤や設備の不備などによって、10人に1人の患者が死亡、または健康被害を受けていると言う驚きの結果も出ました。
前述はイギリスでの調査結果ですが、アメリカも、そして我が国日本も決して対岸の火事ではありません。
なぜこのような結果になってしまうのかと言うと医療業界事態の閉鎖性、クローズド・ループ現象にあると本書には説明があります。
私にも当然ある
医療業界においてはとりわけこの傾向が強く、失敗の事実を過剰に忌避し、ありもしない無謬性にこだわる性質が顕著なのです。
それゆえ医療過誤による検証にも消極的で同じようなミスがあとをたたないようです。
また医療ミスなどによって起こりうるであろう訴訟沙汰を恐るためこのような頑なな姿勢に繋がっているといえます。
しかし皮肉なことに正直に医療ミスを認め、事の経緯をつまびらかに公開した方が結果的に訴訟にまで発展するケースは少なかったりする調査結果も出ています。
遺族は病院を責めたいのではなく、本当のことを知りたいという切実な思いが見て取れますね
医療過誤を素直に認め、詳細をオープンにし、すべての医療関係者に情報を共有できれば、医療ミスを減らすだけでなく、結果的には訴訟リスクさえも減らすことができるのです。
禁酒、断酒においても医者や家族にやめたと言ったのに飲んでしまった人は往々にしてその失敗を隠匿しようとします。
そして自身の敗北感や身内に対する罪悪感から目を逸らすために隠れて飲むようになる方は少なく無いでしょう。
そしてこのような失敗の検証に後ろ向きな医療業界とは違い、失敗に対して常に前向きなのが航空業界なのです。
クローズド・ループとオープン・ループ
前述のような医療業界におけるクローズド・ループとは対照的に航空業界では徹底したオープン・ループを実践しています。
ブラック・ボックスとは破砕不可能な記録装置で全ての旅客機に2つ設置されています。
この中には機内でのクルー同士の会話といった音声データ、管制塔との指示や情報交換のやり取り、飛行ルートや飛行当時の天候状況などありとあらゆる情報が常に記録されています。
そして万が一事故が起こった際は、このブラック・ボックスが回収された後、徹底した検証作業が行われ、その検証記録は航空業界に関わる全ての人間に共有されます。
こうして、失敗のフィードバックから次回のフライトへの安全性向上のための改善が徹底的に行われていき、失敗の可能性は加速度的に摘まれていくのです。
その結果、どうなったのでしょうか。
事故率57%!!
事故率0.00004%!!
もはや飛行機事故で命を落とすなんてほぼ、あり得ないと言える数字でしょう。
むしろ酔っ払って千鳥足で外をうろつく方が遥かに致死率は高いと言い切れます。
そして禁酒、断酒を行う上でも、やはり大事なのはオープン・ループでしょう。
つまり、失敗(この場合再飲酒)しても自分も他人も決して責めない心持ちがとても大切。
もう飲んじゃった時はウジウジ悩まずその時だけは、悔いの無いようお酒を楽しんでしまいましょう。
た… 楽しめるかな…
そして、「やめると言ったのに飲んじゃったー!テヘッ♥」という、開き直りと正直さが必要です。
何に置いても誠実さというのはとても大事な姿勢なので私自身、もし再飲酒したときは素直に白状しようと心に決めています。
無論、そうならないように善処しますが
そして、しっかり失敗と向きあい、仲間に公開したあとで、失敗の原因をじっくりと考察するのです。
有名なのが「HALT」と呼ばれる4つのトリガー
アンカーは人それぞれですが、私の場合は専らワークアウト
こうしたフィードバックを意識して仲間と共有、記録していってトリガー、アンカーのブラックボックスを作りましょう。
こういった報告の場合、断酒会や禁酒外来の担当医、友達や家族といった身近な人間でもいいのですが、やはり手軽なのはSNS。
TwitterやFacebook、LINEなどで繋がっている断酒仲間に素直に報告しましょう。
バツが悪いからと黙っていると、心にどんどん罪悪感や自責の念が溜まっていき飲酒が悪化する危険があります。
失敗体験の共有を図ることで、自分や他の仲間の肥やしにしていくことが大切ではないかと思う次第でございます。
Twitterで『#Twitter断酒部』と付けてつぶやけばあなたと同じような環境の「仲間」と繋がれますよ、是非試してみてください!!
小さな改善、マージナル・ゲインこそ断酒継続の極意
マージナル・ゲインという言葉をご存知でしょうか?
これはイギリスのプロ自転車ロードレースチーム「チームスカイ」を指揮したゼネラルマネージャー、デイブ・ブレイルスフォードが提唱した訓練アプローチです。
マージナル・ゲインの説明の前に前述の「チームスカイ」の偉業を紹介します。
1997年デイブ・ブレイルスフォードがイギリスの自転車競技連盟のアドバイザーとして参加した当時、イギリスのプロ自転車競技界は決して強いと言える状態ではありませんでした。
しかしデイブ・ブレイルスフォードがアドバイザーになったその3年後の2000年、シドニーオリンピックのタイムトライアル競技で、イギリス勢は初の金メダルを獲得。その後の大会でもイギリスは続々と金メダルを獲得していきました。
そして2009年にデイブ・ブレイルスフォードはツール・ド・フランスの優勝を目標に掲げ、プロ自転車ロードレースチーム「チームスカイ」を設立。
そしてそこからわずか3年後の2012年には自転車ロードレースの最高峰、ツール・ド・フランスにおいて「チームスカイ」のイギリス人選手が初の総合優勝を果たしたのです。
多くの人々がイギリス人には不可能だと思っていた偉業を可能にした奇跡、その秘訣こそがマージナル・ゲインなのです。
ではマージナル・ゲインとは一体どんな魔法なのでしょうか。
実はマージナル・ゲインは魔法でもなんでもなく、とても地味な作業の積み重ねでしかありません。
「チームスカイ」が行ったとされる、マージナル・ゲインの具体的な方法の一例は以下の通り。
- 最も効率的なトレーニング方法を検証するために選手たちを細かく測定しデータベースを作る。
- 専用のマットレスや枕の導入。
- 新たなホテルに宿泊する際は先にスタッフが掃除を行い感染症を予防する。
- ユニフォームを肌に優しい洗剤で洗濯し快適感をアップ。
などがあげられます。
最初の項目については簡単に理解できますが、それ以降の内容に関しては、「そんな細かい事までやって意味が有るのか?」と疑問符も付きそうです。ですが、
課題を小さく細分化して、一つ一つ改善する。
この積み重ねが大きな結果をもたらすとデイブ・ブレイルスフォードは説きます。
本書においてはその他にも
- F1チームのメルセデスAMGF1のF1制覇
- ホットドッグ早食い王者の小林尊
- Googleのクリック数をあげるためのロゴ配色
などといった様々な分野でのマージナル・ゲインが紹介されています。
禁酒、断酒におけるマージナル・ゲインとはどういったアプローチでしょうか。
当然人それぞれではありますが、とりわけ再現性が高いものから考察してみましょう。
まず、お酒を断つと多くの方が眠れなくなります。
ですので、まずは睡眠を確保するための工夫が必要。
例をあげると、以下のような事でしょうか。
- 食事は寝る2時間前に摂るようにする。
- 寝る90分前に湯船に浸かって15分程度入浴。
- 夜8時以降は照明を間接照明など入眠を促す明かりに切り替える。
- 寝る1時間前にはスマホを触らない。
- 寝室にアロマディフューザーを設置。
- リラクゼーションを促す音楽を聴く。
- 寝る前に温めた豆乳や牛乳を飲む。
- 寝具にこだわって自分に合った寝つきやすい物を使う。
など、睡眠ひとつとっても小さな改善は多岐に渡ります。
また、お酒を飲まない為の環境構築として、
- 自宅に酒類を置かない。
- スーパー、コンビニの酒コーナーに近づかない。
- 食料品はネットで購入する。
- 飲み会などの参加は当面断る。
など自身の環境を顧みれば禁酒、断酒を継続させる為のマージナル・ゲインは無数にあります。
ただ、闇雲に我慢するのではなく、思考を巡らせて今すぐ手をつけられる「小さな改善」を見つけて実践する。
その積み重ねが禁酒、断酒を継続させる基本であり極意と言えるのではないでしょうか。
禁酒、断酒におけるマージナル・ゲインはとっても簡単でしょう?
お…おうっ!
成長型マインドセットを築いていこう
あるアメリカの実験では被験者のマイドセットにおいて失敗に対する反応に二つの傾向があることが確認されました。
本書ではそれぞれ「固定型マインドセット」「成長型マインドセット」と呼んでいます。
- 「固定型マインドセット」は知性や才能は固定的で先天的な性質と捉えるマインドセット。
- 「成長型マインドセット」は知性も才能も努力によって伸びると考えるマインドセットです。
そしてこれらのマインドセットをもつ被験者たちをそれぞれグループ分けして実験を行ったところ大きな違いが現れました。実験の内容はアルファベットの羅列を答えるだけの簡単な物ですが、続けていくと誰でも失敗をしていきます。
そしてその失敗時の脳波を比較すると、
「成長型マインドセット」の被験者は「固定型マインドセット」の被験者よりも失敗から学習しようとする反応の脳波が3倍も強く出たのです。
この実験からわかることは、「成長型マインドセット」をもつ人間は失敗すると次はどうやって上手くやるかと更に意欲的に取り組む傾向があります。
翻って「固定型マインドセット」を持つ人は失敗すると自分には能力がないと自身を過小評価してしてしまうのです。
なんとも耳の痛い話ですな
どちらのマインドセットが大事かは言わずもがな。
思い返せば私自身お酒を常飲していた頃は「固定型マインドセット」に陥っていたように思えます。
しかしいざ断酒を始めてみるといつの間にか「成長型マインドセット」に変わっている!!…ような気がします。
あくまで、個人の感想です
気のせいでもなんでも、自分の可能性に期待するのに悪いことは一切ありません。
禁酒、断酒を始めた、もしくはこれから実行しようとしている方はぜひこの「成長型マインドセット」を意識していきましょう。
失敗を恐れず、いやむしろ失敗に対し両手を広げて受け入れる気持ち、この姿勢こそがあなたの「成長型マインドセット」を育んでくれるでしょう。
物事を成長させる為には失敗が欠かせない、必要不可欠な要素であり素材でもあるのです。
そう考えると世間で行われる「断酒会」などはまさに失敗の見本市でこれ以上ないまさに生きたフィードバックでもあります。そういったコミュニティーに縁遠い方もSNSなどを活用して失敗のフィードバックを積極的に交換していきましょう。
禁酒、断酒に関わらずチャレンジと失敗を積極的に公開することできっと飛躍的に成長できます…多分
画期的失敗型アプローチ「事前検死」
スリップなんて嫌ザンス
本書の最後では、心理学者ゲイリー・クラインが提唱した予め失敗を体験するシュミレーション、「事前検死」というアプローチを紹介しています。
そういった観点から先に失敗を体験学習するわけです。
もちろん実際の体験ではなく仮のお話
医療でいうと手術をする前に、すでに手術は大失敗した。つまり、患者は死んでしまったという最悪の前提で「検死」をするわけですね。
この会議の際、発言者はあらゆる可能性をざっくばらんに話し、聞く側も決して反論したり否定したりせず発言者の意見を尊重するのが肝要。
そうやって失敗の原因を思いつく限り上げていき、失敗のブレインストーミングをするわけです。
このようなアプローチはもちろん禁酒、断酒にも活用できるでしょう。
仲間内で自分は再飲酒してしまった、しかも飲酒量が以前よりも大幅に増えてしまい、これまで以上に依存症が悪化して死んでしまった。
これくらい思い切った仮定を提示して、みんなで考察を図りましょう。
例えば、飲んでしまった要因として、
- 数ヶ月飲んでいないから、もう飲酒してもコントロールできると思った。
- 飲み会で仲間に騙し討ちで飲まされて、ヤケになって大量飲酒に走った。
- 家族が死んでしまい、悲しみを紛らわせるために飲んでしまった。
- パートナーに裏切られて、怒りに駆られて飲んだ。
- 不治の病に冒されてもう長く無いので飲むことにした。
- 核ミサイルが日本にあと1時間で着弾し、逃れる術がないので飲んだ。
などなどベタな展開から、起こってほしくない事象、現実的にはあり得なさそうな事柄まで色々と思考を張り巡らせるのです。
また再飲酒になってどういう結末になったのか、なども考察するのも面白いでしょう。
面白がってる場合か!!
- 依存症が悪化し家族に捨てられて、孤独になった。
- 経済的に破綻してしまい財産をすべて失い浮浪者になる。
- 飲酒運転をしてしまい、人を轢き殺して刑務所に行く。
- 酔っ払って線路に落下して命も落とす。
- シンプルに自殺。
とまあ、ちょっと縁起でもない話ですが、現実に飲酒によって日夜起こっている事象でもあります。
そうやってあらゆる視点から起こりうる最悪をみんなで挙げていき、そこからそれらを事前に避けるための予防方法や起こってしまったあとの善後策を検討していくのです。
こういった取り組みもスマホが普及した現在、SNSなどを活用して簡単に大勢の人とやりとり出来るのではないでしょうか。
まとめ、意志と行動で失敗は成長に変わる
以上が世界的名著と言われる「失敗の科学」のブックレビューと禁酒、断酒のマインドセットへの展開思考記事となります。
分かりきったことではありますが、本書を読み込むことでより自身の腹の中に落とし込むことができるでしょう。
今回取り上げた内容の他にも、
- 無数の失敗作から見事なプロダクトを作り上げた、ユニリーバのイノベーション。
- とあるカルト宗教が予言を大外しした後、自分達の正当性を確保するため事実の解釈を捻じ曲げたエピソード。
- 社会主義国家による机上の空論で行われた政策によって無辜の民が大勢死んでしまった悲惨な経緯。
- 全米から称賛を受けたある更生プログラムの余りにも皮肉な結末。
などとても紹介しきれないほど、面白くてためになるエピソードや実例が豊富に詰め込まれています。
普通に読み物としても非常に重厚で学びの多い一冊ですが、当ブログを御覧の方々はぜひ、自身の禁酒、断酒継続のマインドセットに取り入れて今後の人生の糧にして欲しいと強く思い、今回悪戦苦闘しながら拙くも記事にした次第でございます。
今日飲まないという決断と行動があなたの成長を促し、強靭な自己肯定感を形作ってくれます。
飲まずに一日過ごせたあなたは間違いなく昨日のあなたより「成長」しているのです。
そして、その継続が途絶えたとしても、これまでのことが決して無駄になる事はないのだと心得ましょう。
真の無知とは、知識の欠如ではない。学習の拒絶である。
哲学者カール・ポパー
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