みなさんは「ナッジ」という行動経済学の用語をご存知でしょうか。
「肘で突っつく」という言葉が語源で、社会的に好ましいとされる行為を促すちょっとした「仕掛け」を指します。
無意識のバイアス(偏見)を利用し、人の行動をより良い方向に導く手段。
つまり誘導を目的とする社会的実験を兼ねた「優しいおせっかい」といったところ。
このナッジ、筋トレやダイエット、そして禁酒や断酒にも大いなる効果を発揮するのです!!
マジでか!?
オナシャス!!
この世は「ナッジ」と「スラッジ」にあふれている
ナッジは一人ひとりが自分自身で判断してどうするか選択の自由を残しながら、人々を特定の方向に導く外的介入といえます。合理的選択への促進、これを選択アーキテクチャとも呼びます。
ナッジの例あれこれ
ナッジ理論によって創作された物の例を挙げると以下のようになります。
- スマホのリマインダー機能
- ECサイトのレコメンド機能
- 街や施設の表示看板
- レストランのおすすめメニュー
- GPS付きのナビゲーション
- コンビニやレストランなどのメニューのカロリー表示
- タバコのパッケージに喫煙のリスクなどを表示する
- 男性用便器の小蠅イラスト
- 車道のカーブに引かれた破線
などと言ったところ。
海外の男性用トイレで小便器の内側に小蝿のイラストをあしらうものなどは有名ですよね。(女性にはピンと無いかも)
これは小蝿を狙って用を足す事で便器の外に尿が飛散することを防ぎ、清掃の手間を減らすという効果が期待できます。
車を運転している時、車道のカーブに差し掛かる路面の内側に破線が引かれているのを見たことはありませんか?あれはドライバーに道が狭くなったと錯覚させて減速を促し、事故の発生率を下げることを狙ったナッジです。
更に身近なナッジではスーパーのレジ前に足跡マークやバミリ(目安の線)があったりしますよね。
アレのおかげで適切な距離感を保って並ぶことが出来、ソーシャルディスタンスを視覚情報のみで促せます。
あら便利
ナッジの反対スラッジとは?
また、ナッジの対義語としてスラッジという概念も存在します。
身近なスラッジをあげると以下のようなものがあるでしょう。
- ECサイトなどで、有料オプションの追加やメールマガジンの購読などの追加的サービスがデフォルトで許可された状態にしている。
- SNSで、ワンクリックでインターネットに公開投稿される設計となっている。
- 「セール期間終了まであと何分」のようなカウントダウン表示や、「他に何人がこの商品を閲覧中」などの購入意欲を煽る情報を必要以上に強調する。
- 手続きの全体像が把握しづらい。
- 同じ内容を何度も入力させる。
- 一括選択や解除ができない。
- オンライン上だけで完結せずに電話や郵送を求める
- 必要以上に手続きを複雑にしている。
煩雑すぎる行政手続き等もこれに当たるでしょう。
徴収するときは光のスピードのくせに、還付や配当、給付などはめちゃめちゃ遅い💢
などなど、他にも色々ありますよね。
リバタリアンは自由至上主義、パターナリズムは父権的温情主義という解釈になります。
要するにお酒を飲むか飲まないかはあなたの自由(リバタリアン)、しかし断酒した方があなたの人生は明らかに多幸的ですよ(父権的温情主義)と言った感じでしょうか。
このように選択の自由は保障しつつより好ましい選択へと促す、まさに「優しいおせっかい」と言った体裁が理想的といえますね。
ナッジ理論をアルコールに適応
実は最近のアルコール飲料、ビール類やチューハイ類には純アルコール量が明記されるようになっているのをご存じでしたか?
しかし、かなり小さく、判別しずらい位置に申し訳程度に記載されるにとどまります。
注目して欲しくないというメーカー側の意図が透けて見えるようですね。
純アルコール量を知ることで得るメリット
しかし純アルコール量の明記には様々なメリットがあります。
現在アルコール商品を見ると比較的容易に視認できるのはアルコール度数でしょう。
大きく表示されている
ビールなら5.5%、一般的な缶チューハイなら6%、ウィスキーの角瓶なら40%、赤ワインなら約13%といったところ。
しかし、この表示だけだと消費者は自身のアルコール耐性を鑑みてどの量でどれくらい酔えるかを体験的に考察できる程度に留まります。
純アルコール量を分かりやすく表示することに併せて、厚労省が推奨する1日の純アルコール摂取量を明記すれば健康上のメリットが期待できます。
健康を害すると言われる、純アルコールの摂取量。
多量飲酒と認定される純アルコールの摂取量の目安などを周知させておけば、確実に飲み過ぎを抑えられますし、アルコールによる健康被害の軽減に役立つでしょう。
無論わかりやすく明示したところでお構いなしに多量飲酒する人も沢山いるでしょうが、健康維持に敏感な人や女性などには確実に効果的だと思います。
今回、1日における摂取純アルコール量の目安と各種お酒の純アルコール量を示した図表を制作しました。
「まずは節酒から」と、お考えの方はこの画像をダウンロードして、スマホの待ち受けにするか、プリントアウトして冷蔵庫などに貼り付けてください。
健康を守るための飲酒量を知れば、
「たったこれだけしか飲めないなら、ハナから飲まない方がマシ!!」と思う事でしょう。
そう思ったあなたは断酒した方が断然幸せだと私は考えます。
お、リバタリアン・パターナリズム
ノンアル飲料の広がり
あと社会的な取り組みとしてはノンアルコール飲料の充実などが挙げられます。
居酒屋さんやバーでアルコールの代替飲料としてノンアルビールやモクテルの提供を拡充。
モクテルとはカクテルを模倣したノンアルコール飲料で、近年ヨーロッパの若者を中心に人気だそうです。
シラフでパリピ!!
売れればもっと増えるよ!
やめやすくする仕組みを構築しよう
禁酒、断酒と似たような健康的取り組みといえば禁煙ですよね。
海外で禁煙を促すナッジとして以下のようなものがあります。
それはフィリピンミンダナオ島にある、グリーンバンク・オブ・カラガという施設が提供する専門プログラムです。
禁煙したい人はまず1ドルを預けて口座を開きます。
そして6ヶ月の間、タバコ代になっていたはずの金額をこの口座に預金するのです。6ヶ月後に預金者は尿検査を受けて、最近タバコを吸っていないことを立証します。検査にパスすればめでたく預金額が戻ってくるという仕組みです。
尿検査を通らなければ預金は没収されてお金は寄付されるという仕組みとなっています。
そして、このプラグラムによって禁煙に成功した人の割合は53%に上るとの報告があります。
二人に一人が成功しているのか!?
- まず禁酒、断酒仲間同士のプログラム用コミュニティーを構成する。
- そして各々酒代を貯金しているのを専用の口座預金などを示して確認。
- 一定期間禁酒、断酒(もしくは節酒)が出来ていることを証明するために献血結果で得られるγ-GTPの数値を公開。
- 基準値内なら貯金をゲット、オーバーしたら禁酒断酒コミュニティーに募金。
といったところでしょうか。(医療機関を利用できればなお良い)
損失回避とフレーミング効果
人は利得より損失に敏感なのは多くの方が感じているでしょう。
行動経済学によると利得は損失の二倍程度でトントンになると言われています。
プロスペクト理論
ダイエットにしろ、禁煙などにしろ、やることで得られるメリットよりもやらないことで被るデメリットを強調した方が一時的な効果が高いことが分かっています。これが「フレーミング効果」。
断酒をすればよく眠れて、頭もすっきりするし調子もよくなる。
と言ったメリットよりも、飲酒することで、老化が早くなり太りやすくなって、成人病などの発病リスクが圧倒的に高くなる。と言った損失を強調した方が効果的ということですね。これが「損失回避」です。
実際欧米やオーストラリアなどでは、テレビCMを通じて過度な飲酒によって、いかに不幸なことが呼び寄せられるかといった趣向のCMが放送されているようです。日本ではこういったCMは絶無と言ってもいいでしょう。
最近はSNSで禁酒、断酒関係のコミュニティーも増えているので、ネットを通じて、飲酒によるデメリットを共有していきましょう。
地上波テレビという「国民的スラッジ」
地上波テレビはアル中拡散機!?
あえて断言しますが、お酒のテレビCMは間違いなく「スラッジ」にあたります。
これは私が断酒者でお酒に個人的な恨みがあるからという理由ではありません。
ホントか?
普通に考えて合法的な依存性物質とはいえ、お酒は対象者に年齢制限が設けてあります。
未成年(飲酒の場合は20歳未満)は法律上飲んではいけないものです。
それが未成年も視聴するであろうテレビで未成年が飲んではいけない物を宣伝するのは法律的にも倫理的にも好ましいとは言い難いでしょう。
またアルコールは医学的にはれっきとした薬物であり毒です。
薬と毒は医学的には仲間、というか大体同じものです。製造過程や使用目的、摂取量などで毒は薬にもなります。
酒は百薬の長ということは百毒の長でもあるわけね
明らかに健康に害があるとわかっている物をいくら成人(20歳以上)が対象とはいえ魅力的にアピールするのは社会的に推奨されるべきではありませんよね。
そもそも、お酒のCMがなくなって困るのはお酒のメーカーとお酒を販売している業者(飲み屋さんもこれにあたる)、CM出稿料を貰っているテレビ局、あと財務省(国税庁)くらいです。(お酒は税金が約四割)
日本人全体から見てみた場合、少数の人たちの利益にしかなりません。
それこそお酒が好きな人にとっても不要でしょう。
いちいち宣伝などしなくても買うし飲みます。
だって依存薬物だもの
むしろ、CMはない方が好ましいと答える酒好きの方が多数派ではないでしょうか。
なぜならCMがなければ余計な飲酒機会を確実に減らせるからです。
ネットよりもリテラシーの低いオールドメディア
現在ネット動画のYouTubeではアルコール関係の広告をほとんど、というより全く見なくなりました。
私だけ?
YouTubeにはアルコールやギャンブルの広告をカットする機能設定がありますが、デフォルト設定でも出なくなってきています。また飲酒する動画は広告はがしに遭う事もあるとか。
ネットは世界基準なので、世界的なアルコール規制が進んでいることが示唆されているといえるかもしれません。これらネット上の施策も見えないナッジの一つと言えるでしょう。
見えるものだけがナッジではない
むろん飲むも、飲まないも個人の自由ですが、体に悪いものをわざわざ勧められても困ります。
それに引き換え日本の地上波テレビは未だに夕方以降アルコールのCMが大量に流れているのはご存知の通り。
もはや地上波テレビの存在自体がスラッジと言えるでしょう。
NHKも含めていろんな意味で完全にオワコン
基本ナッジとは善意で良かれと思ってやるものですが、個人や立場によってはスラッジに転化してしまう可能性を常に孕んでいるとも言えるでしょう。
行動経済学で「スラッジ」は忌避すべき障害です。
よって禁酒、断酒において地上波テレビは排除することが望ましいと私は考えます。
マジ不要!!
またよく聞く言説には、禁酒、断酒をするとストレスが溜まって、他のことに散財したり、甘いものを食べ過ぎてしまうので本末転倒。よって断酒という極端な選択をするのではなく「適度」に嗜む方が「健康的」というものがあります。
この心理行動を極端回避性と言います。
しかし、飲酒に限らずなんでもそうですが、人間には適応能力があります。
やめてしばらくは違和感による不調やイライラが付き纏いますが、いずれ無い生活がデフォルトになります。
個人差はあると思いますがタバコなどはやめて、1〜2ヶ月もすれば、吸わない状態に慣れます。
しかしアルコールが厄介なのは、やめた状態が「当たり前」の環境が構築されるのは凡そ1年程度かかるのです。
そして、その間に断酒者の7割が再飲酒します。
我慢すると飲みたくなる心理「カリギュラ効果」
特に始めたての1週間はかなり強烈で、飲めずにイライラするもの。
開始直後はいわゆる離脱症状による身体的な飲酒欲求が主体ですが、これはいずれ収まります。
しかし1ヶ月、3ヶ月と経っても飲みたくなるのは身体的理由ではなく心理的理由、カリギュラ効果によるものです。
カリギュラ効果とは「やるな」と言われると逆にやりたくなる、あまのじゃくな人間心理です。
恋愛禁止のアイドルみたいだな…
人は抑圧を感じると反発したくなるのは誰しも経験のあることでしょう。
行儀よく真面目なんてクソ喰らえと思った
お酒がらみで超有名なのはアメリカにおけるかつての禁酒法(1920年〜1933年)です。
また現在の日本においても違法薬物での逮捕者は後を断ちません。
わかっちゃいるけどやめられない、人間だもの
だからこそ、「我慢」による禁酒、断酒は続かずに挫折してしまうのです。
そ…そんなこと言ったってぇ
開始直後は、我慢一辺倒だった禁酒、断酒も身体的飲酒欲求が沈静化するタイミングで、「我慢しない禁酒」、「自ら望み、選んだ断酒」へのコンバートが大事なのです。
この心理移行が比較的容易なのが「ハネムーン期」(15日〜90日)です。
この時期の心理移行がどれだけ進んだかによって、のちにやってくる「壁期」(90日〜180日)の克服率が変わってきます。
節酒より断酒の方が実は簡単
タチが悪いことにお酒というのは飲むのをやめた期間が長いほど、再飲酒した後に酒量が増えてしまいます。
そして再び禁酒、断酒をリスタートすると前回よりも強い飲酒欲求に襲われるのです。
つまり再チャレンジするたびに難易度が上がる無理ゲー仕様。
全員が必ずそうなるとは限りませんが…
だからこそ、自分にはお酒はもう必要ない、やめて正解だ!と思える人生観の構築が欠かせません。
その目的意識がないと、禁酒、断酒再チャレンジのたびに我慢が大きくなり、離れ難くなってしまう心理を覚えておきましょう。禁酒、断酒は概ね1年を過ぎるまでは心理的になかなか安定しないので、ナッジによる環境設定で、都度やってくる飲酒欲求を潰す工夫が有効と言えるのです。
新しい習慣化の対策で有効なのが「ベイビーステップ」。
行動のハードルを極限まで低く設定することです。
勉強なら参考書さえひらけばOK!
ダイエットならお茶碗のご飯を8分に減らせればGJ!
筋トレなら腕立て5回やればクリア!
など、ちょっとでもいいので、とりあえず行動出来れば良しとする考え方です。
人間とは不思議なもので、一度触り始めると徐々にやる気が出てきて、行動力が上がる生き物です。
もちろんちょっとやっただけでそのまま終わってもいいので、「とりあえず」行動を起こしましょう。
ナッジのチェックリストEAST
EASTとは、行動経済学において、行動変容を促すために使用される4つの基本原則で、それぞれの頭文字をとっています。
- Easy(かんたん)
わかりやすくシンプルなメッセージで伝え、手間を省く設計とすることで、行動へのハードルを下げることができます。たとえば、アンケートを実施する際に、回答を記述させるのではなく選択式にしたり、選ばせたい項目を初期設定としておくことで、難易度を下げるようにします。 - Attractive(魅力的)
魅力的で、印象的な選択肢を用意することです。何らかの行動を起こすきっかけとして、魅力的な画像や印象的な色彩で注意を引くことも大切です。また、企業内では、成果を出した社員への表彰制度を設けるなど、金銭面以外のご褒美を用意することも有効です。 - Social(社会的)
多くの人が、ある行動や選択をしているという認識は、その行動や選択をするという動機を強化することになります。他の人たちが、どのような行動をとったかを伝えることが、その行動への誘因になるのです。行列ができている店に並んでみたくなるのも、社会的な行動バイアスがはたらくためでしょう。 - Timely(タイムリー)
適切なタイミングで行動を促すことです。社会人になった、結婚をした、子供が生まれた時などに、生命保険に加入する人が多いといわれています。行動を起こすにはタイミングというものがあり、受け入れやすい時期にタイムリーな提案を行うことが大切です。
これらを禁酒、断酒で活用すると以下のようになります。
Easy
- 医療機関の情報を提供する
- 医療機関へのアクセスを簡単にする
- オンラインでの相談や支援を提供する
- 簡単な自己評価テストを提供する
Attractive
- サポートグループの設立や情報提供を行う
- トリガー回避や代替行動の提案を行う
- ポイントプログラムなどの報酬を提供する
- 自己肯定感を高めるための支援を提供する
Social
- サポートグループやアルコール依存症者の体験談を紹介する
- 身近な人への周知や理解を促す
- 医療機関との連携や家族への支援を提供する
Timely
- 決意が強まった時期や特定のイベント前にサポートを提供する
- 飲酒欲求が高まる夕方や週末などの時間帯にリマインダーを送る
- 断酒後の不安やストレスを軽減するための支援を提供する
以上のように、EASTフレームワークを活用することで、断酒を目指す人々がより簡単に行動を起こし、魅力的に感じ、社会的なサポートを得られるようになり、適切なタイミングでサポートが提供されることで、断酒の成功率を高めることができます。
私たちは非合理な生き物と自覚しよう
「ホモ・エコノミカス仮説」という経済学用語があります。
これは人間は自身の利益を最大化するため、常に「合理的」な判断と行動をする、といった仮説です。
マジ!?
理屈通りにいかない人間のココロ
この仮説が本当なら、アルコール依存症の人間など存在しません。
お酒は飲み過ぎれば、フィジカルもメンタルも大いに害することがわかっているのに飲み過ぎたり、毎日飲酒なんてしませんよね。
できる人もいるが…
甘いものがやめられずに、太ってしまう人もいなければ、出不精で運動不足になる人もいないはずです。
学生はみんな将来のために勉学に励み、この世に貧困など存在しないはずですがそうはなっていませんね。
そのような高いセルフコントロールができる人はごく少数だからに他なりません。
怠けたい!食べたい!遊びたい!飲みたい!!
しかし、これらの不利益を全て自身の責任ととらえるのも生きにくい人生でしょう。
かといって世の中の制度設計が全て悪いと言い出したところで詮なきこと。
共産主義革命じゃあるめーし
お酒が悪いし、世の中もちょっと悪い!!といった他責思考もある程度は許容しつつも、自身の人生は結局自分でしか良くできない、といった当事者意識を大切にしましょう。
断酒におけるシステム1とシステム2
反射的な判断を司るシステム1。
熟慮的な判断を司るシステム2。
と言われるの2つの思考システムです。
そして人間は多くの場合、反射的な直感思考「システム1」が優位に働くようになっているのです。
- 信号が赤になったら止まる。
- 歩いていて向こうから人がやってきたら避ける。
- 車を安全に運転する。
- Twitterに嫌なことがつぶやかれていたらムカつく。
- テレビで残酷なニュースが流れてきたら悲しい気持ちになる。
などなど、どうしてそういうリアクションをするのかといちいち考えることなく感じる思考システムです。
考えより、感情や行動が先に伴うので、時短になります。
ある意味便利
翻って「システム2」は複雑な思考を行う際に使うシステム。
立ち止まって考えて、どうしてそうするのか、これをやったらどうなるのかなど、行動による結果をより詳細に予測し、想像力をフルに働かせる機能です。
私たちは様々な場面でこの二つの思考を使い分けています。
今必要な処置を即座に行う瞬間は「システム1」。
自分の将来のために何をするべきかなど、真剣に物事を考える時は「システム2」
といった具合です。
ここまで書けばお察しいただけると思いますが、
私たちの飲酒欲求は「システム1」、
断酒によるメリットを考え行動に移すときは「システム2」を駆使しています。
飲みたいから飲む、そこに複雑な思考や理由は要りませんよね。
しかし断酒を継続していくにはそれでは難しく、常に「システム2」を働かせる工夫が要るのです。
自動車の運転を思い返すと分かりやすいでしょう。
免許取り立てや、仮免の時は運転するのがとても大変でした。
速度の調整、歩行者や標識の確認、車間距離の維持「システム2」をフル稼働でほんの数十分運転するだけでひどく気疲れしたものです。
懐かしいのう…
しかし、免許をとって1年もすれば、これらの確認と行動が難なく出来るようになります。
禁酒や断酒も同じで、最初は飲酒欲求の「システム1」が働き、断酒意志の「システム2」とのせめぎ合いで精神的に疲弊します。しかし断酒を継続していけば、飲まない状態がデフォルトになり、飲まないメリットが脳に染み付いて、断酒を継続することに何の支障も来さなくなるでしょう。
まあ、それでもちょっくらい…という誘惑が脳裏に浮かぶでしょうが
ナッジの本質は「システム1」への働きかけ
今日お酒を飲むか飲むまいかと考えるまでもなく、直感的に今日はお酒はやめておこうと感じるようにする「仕掛け」です。
それができれば苦労しねえ
ダイエットの取り組みとして、かの超大手テック企業Googleでの一例を紹介します。
Googleの食堂では、お肉やスイーツなどの太りやすい高カロリー食品をあえて取りにくい位置に設置し、野菜やフルーツを取りやすい位置に置くというナッジがあります。
その結果、利用社員の摂取カロリーを1割弱減らすことに成功した取り組みなどもあるのです。
つまり、意思ではなくシステム。
精神論ではなく環境設定がナッジを構築するための基礎とも言えますね。
つまり自身にとって必要なことは簡単に、不要なものは複雑に環境設定を変更するのです。
断酒のための行動は簡単にできるようにする。
飲酒のための行動は面倒で煩雑にするといった環境構築です。
- お酒がすぐ飲めないように自宅のアルコールは処分して置かない。
- 買ってしまわないように当分現金やカードは持たず生活する。
- 喉が渇いた時、すぐ潤せるように常に水筒やペットボトルを持ち歩く。
- アプリやカレンダーで断酒した日数をカウントして常に見られるようにする。
- SNSで断酒を継続したい気持ちを一日一回つぶやく習慣づけ。
- 大きなビンなどに「飲んだつもり貯金」で酒代を見える様に貯めていく。
などといった、小さな行動、小さな習慣を積み重ねるのが想像以上に有効ですので、まずやってみましょう。
未来に期待するな!変えられるのは常に今だけ!!
そう思っている人は多いでしょうし、かつての私もそうでした。
人間は誰しも怠け者で、「今」を楽しみたいものです。
ぐうの音も出ないぜ…
禁煙、禁酒が出来ない理由は、勉強しない理由ともよく似ています。
人間は未来の自分を過大評価してしまい、根拠もなく期待するものです。
夏休みの宿題をギリギリにやる奴
今はタバコも酒も楽しもう、でもいつかはやめられる、いつでもやめられる。
勉強しないと志望校に行けないな、今日はゲームするけど明日はちゃんと勉強しよう。
まさに明日やろうは馬鹿野郎というわけですね。
オメーだよ!
禁煙も断酒も勉強も「今」それをやることは将来的メリットにつながる、未来への投資行動です。
しかし、これらのベネフィットを体感できるのは長い長い時間がかかるもの。翻って喫煙、飲酒、ゲームは今すぐに果実を得られます。この時間の格差に影響されて、賢明な行動を怠る心理を「双極割引モデル」などと言います。
この違いは結局1年後の自分を明確に想像できていないところでしょう。
リアルさがないから未来に根拠もなく期待するのです。
分かりきったことではありますが、未来は「今」の積み重ね、今は「過去」の積み重ねなのです。
1年前断酒しようと思っていたのに今飲酒している人は、来年もおそらくお酒を飲んでいます。
なぜなら変わるのは「今」をおいて他には絶対ないからです。
断酒に失敗する方法教えます
禁酒、断酒が失敗する黄金パターンで有名なやり方があります。
やり方はシンプル、期日を決めてその日から始めようというやり方です。
年が明けたら断酒しよう。
誕生日の翌日から断酒しよう。
来月の一日から断酒しよう。
週明け月曜から断酒しよう。
などですが、このやり方はとても失敗率が高いです。
私自身、この手のやり方で過去に何度も失敗しています。
オメーだけじゃねーの?
例えば年の後半に来年からお酒をやめようと考えます。
年明けまで数ヶ月あった場合、期日が迫るごとにお酒の未練が膨らみ、飲酒量が増えます。
そして年の瀬、大晦日。ここぞとばかりに大量飲酒して新年を迎えた場合、依存症の度合いはマックスです。
元日は強烈な二日酔いで、とても飲める状態ではありませんが、この二日酔いが抜けると同時にこれまでにない超強烈な飲酒欲求が襲いかかります。その上「もう飲めない」という思いが一層飲酒欲求を高めるのです。(カリギュラ効果)果たしてこれに抗える猛者はどれほどいるでしょうか。
大抵の人は3日以内に再飲酒します。
思い立ったが吉日なんて言葉がありますが、禁酒、断酒においてもこの思考が最も成功率が高いです。
タイミングが大事で、もうこれ以上お酒に振り回されたくない!お酒から離れたい!と強く思った「その日、その時」にいきなり開始しましょう。
私は2020年11月8日という何とも中途半端な日に前述のような思いに強く駆られてから断酒を開始。
その日以降今日まで一切飲酒していません。
スパッとやめて、もうすぐ1000日!
逆にいえばそういう思いが起こらない人はなかなか難しいのが現実だったりします。
変わりたい!と思った瞬間が変わり時です!!
わかりみがふかみ〜
私たちは未来に勝手な期待を持つくせに、今を怠けたい無責任な生き物です。
そのくせ、いざ何かを始めるとまだ大した努力もしていないくせに都合のいい結果を急いて求めるもの。
だから結果という「未来に期待」するのは不毛なので、過程である「今を楽しむ」心構えが大事なのです。
SNSにおける「Twitter断酒部」などといったコミュニティーも未来への期待ではなく、今断酒を実践している自分を褒めるツールとして使い倒しましょう。きっと同志のみんながあなたを褒めちぎってくれます。
褒めて伸ばして〜💕
「知る」ことから全ては始まる
飲酒する人の多くは、お酒を飲んで美味しい料理を食べることは望みますが、肥満や膵臓がんになることは望みません。
酔っ払って、楽しくなることは望みますが、飲酒運転で逮捕されることは望みません。
飲み会での楽しい出会いは望みますが、想定外の妊娠は望みません。
お酒というアイテムは常に幸と不幸、表裏一体であり、飲み続けている限り幸の部分だけを都合よく選択し続けるのは至難の業といえます。
シラフで行う日々の仕事でさえ、失敗する我々人間(ヒューマン)が、飲酒では一切の失敗をしない合理主義者(ホモ・エコノミカス)になれるなどということは「合理的」に考えてあり得ないことです。
だって人間だもの
日本の飲酒における経済的損失は年間で4兆円に上るとの試算もあります。
飲酒によって起こる、事故、事件、病気による医療費などが原因と容易に予測できますね。
これらを防ぐために、飲酒による規制を設けたりタバコのように度重なる増税も一定の効果があると思いますが、かえって反発を招くのは自明の理。
カリギュラ効果やん
〇〇すればハッピー!は大体勘違い
あなたが人生において重要だと考えていることが、実際に重要であるのは、それを考えている間だけである。
ダニエルカーネマン
こうすればきっと幸福になれる。
こうなると不幸になってしまう。
現状に納得できず「〇〇になれば…」と、条件付きの未来に過剰な期待や不安を抱いてしまう。
これをフォーカシング・イリュージョンと言います。
断酒も始めたばかりの時は意識の多くが飲酒欲求に持っていかれるため、お酒のことばかりを考えてしまうものです。
そして飲みたくても飲めない現実に惨めさを覚えるものではないでしょうか。
ゆえに飲酒や断酒、とどのつまりお酒という物質に対して意識過剰になってしまうのです。
なので意識がお酒から離れるまで、気長に待つ必要があります。
新しい習慣の構築はそれを大いに手助けしてくれるものとなるでしょう。
人間はいい環境にも悪い環境にも慣れて適応するもの。
現に私は今そういう状態
シラフが当たり前になれば、次の課題に取り組める!
結局のところ禁酒、断酒そのものにあなたの人生を好転させる要因はありません。
しかし、お酒を断つことで否応なしに常時冷静な状態を維持して、自身の人生にとっての必要な課題を発見、実践させやすくする。禁酒、断酒最大の効能はそういったところではないでしょうか。
断酒によって得られるベネフィットの本領発揮はまさにこの、慣れた状態以降から始まるのです。
飲酒習慣がデフォルト状態の人は飲んだ翌朝の生産性は望むべくもないでしょう。
しかし飲まない状態が普通の人なら、起きてすぐ何でもできます。
一日一日で見れば些細な行いです。
しかし、飲まない状態が普通になり、これが3年、4年と続いていけば大きな力になるのは想像に難くないでしょう。
私自身過去の飲酒習慣によって、これらのチャンスを十年以上に渡って不意にしてきたのかと考えると慚愧に耐えません。
悔しいです!!
また娯楽などでも飲酒脳とシラフ脳では、得られる学びや気づきに天と地ほど違いがあるのも実感しているところでございます。断酒してからというもの観るエンタメの趣向が変わり、ドラマや実写映画よりもアニメ作品を楽しむ頻度が圧倒的に多くなりました。(主に日本のアニメ作品)
私は広告物のデザインやディレクションの仕事に携わっていますが、お酒をやめて、観る動画の嗜好が変化して仕事の生産性も以前より確実に向上しているのを実感しています。正直まだ大した変化は起きていませんが、以前より自身に対する伸び代を感じられるようになりました。
このセルフエスティーム(自己肯定感)の成長が、断酒継続の動機になっている真っ最中なのです。
断酒の良さは、時間が経過すればするほどじわじわと大きくなっていきます。そしてその変化は最初はとても小さくか細いものなのです。故に実感を得られるまでに長い時間がかかってしまい、それが再飲酒につながってしまうのだなと妙に納得している今日この頃。
こうしたつまずきを潰していくためにも断酒のための「ナッジ」を自身の身の回りに散りばめていくことが有効です。
「ナッジ」が、あなたにとって小さな良い習慣を積み重ね、大きな進化と成長を獲得する手立てになれば幸いです。